貸倒引当金~もしも貸倒引当金が無かったら?


みなさんこんにちは!

今日は貸倒引当金について見て行きましょう。

貸倒引当金って何でしょうか?

もちろんそれは、「貸倒に備えて引き当てておくもの」ということになるでしょう。

ですが、そう言われてもよくわからないと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

でも大丈夫。

なるべくわかりやすくご説明しようと思います。

ひとつひとつ、一緒に見ていきましょう。

 

貸倒(貸し倒れ)とは?

まず、「貸し倒れ」の意味ですが、イメージとしては「貸したお金が返って来ない」という事です。

貸付金のケース

知り合いにお金を貸したけど、「すみません。返すべきだという事は認識していますが、お金が無くて倒産してしまい、返せません。誠に申し訳ございません」という状態なり、諦めざるを得なくなってしまった状態です。

こういう時、「貸したお金が貸し倒れになってしまった」という風に「貸し倒れ」という言葉を使います。

売上債権のケース

商品を売り上げた時に、商品と引き換えにその場でお金を貰うのであれば代金回収不能に陥る事はありません。しかし、商品は先に受け渡し済みで、請求書は後から送り、代金決済はさらにその後になる場合があります。代金を売掛金とした場合などです。この場合には、商品を売り渡した後、得意先の資金繰りが悪化し、代金回収前に実質倒産してしまう事もあります。

この場合、代金を回収できないため、その売掛金は貸し倒れてしまう事になります。

 

引当(引き当て)とは?

貸倒引当金とは、こうした貸し倒れの見込み金額を、前もって引き当て計上するものです。

仕訳としてはこのようになります。

<仕訳1>
 
貸倒引当金繰入 XXX   貸倒引当金 XXX
    -費用-                     -負債-

 

貸倒引当金勘定は貸借対照表の貸方(右側)に書かれることがあるので「負債」と書きましたが、より正しく言えば「評価勘定」というカテゴリーに分類されます。

評価勘定とは、資産のマイナス勘定です。

貸倒引当金は売掛金等、引き当ての対象となる資産のマイナス分を表すものです。

なので、資産側の売掛金等の下にマイナスの値で表記する事もあります。

ちなみに、減価償却の間接法で用いられる減価償却累計額も評価勘定のひとつです。

例えば車両減価償却累計額は車両勘定のマイナスを表す評価勘定です。

資産を減らし、その分貸倒引当金繰入という費用を計上することで、当期の利益を減らすことになります。

 

なぜ貸倒引当金を計上するのか?

では、なぜ貸倒引当金を計上するのでしょうか?

実際に貸し倒れが起きる前に売掛金等を実質的に減らす意味って何なのでしょう?

その答えをより明確に理解するためには、「もしも貸倒引当金が無かったら?」と考えてみるのが良いでしょう。

では一緒に「貸倒引当金の無い世界」を想像してみましょう。

 

ケース・スタディ

ここでは理解のためのイメージを膨らますために、敢えて極端なケースを想定してみます。

 

X1年度の終盤に、商品の売れ行きが芳しく無かった猫田商店は、お得意さんの山羊沢商店にセールスプレゼンを行いました。

猫田「こんなに良い商品なのでどうかお買い求めください」

すると、山羊沢商店はこう言いました。

山羊沢「とっても良い商品だと思うから喉から手が出るほど欲しいとは思う。でも、この事は内緒にしておいて欲しいのですが、正直いうと、今資金繰りにとても苦しんでいるので買うことが出来ないんですよ。。。」

そこで猫田商店は言いました。

猫田「では代金は即金ではなくて後日の請求、つまり売掛金で良いですよ」

山羊沢商店はそれならお金は何とかなると思い、100万円分購入することにしました。

めでたく猫田商店はX1年度中に山羊沢商店に商品を売り上げました。

<仕訳2>
 (単位:万円、以下同様)
 
売掛金 100   売上 100

 

しかし、X2年度になって、結局猫田商店は山羊沢商店から全額回収する事はできず、80万円しか回収することができませんでした。

そこで次の仕訳を計上しました。

<仕訳3>
 

現金預金 80    売掛金 100

貸倒損失 20

 

この貸倒損失20万円ですが、これはX1年度に現金で売り上げていたら生じなかった損失ですよね?

X1年度に掛で売り上げたからこそ生じた損失です。

あるいは、資金繰りに不安があるなら売らなければこの損失は無かったことになります。

つまり、この20万円の損失はX1年度の売上のために生じた損失です。

そうであれば、本来ならこの20万円はX1年度の収益に対応させるためにX1年度の費用として計上すべきです。

こうした考え方を「費用収益対応の原則」と言います。

これこそがX1年度の費用として、貸倒見込額を引き当て計上する理由なのです。

 

貸倒引当金の計上方法

ではどのように貸倒引当金を計上するのでしょうか?

例えば、合理的に見積もられた貸倒引当率(貸倒設定率)が売上債権の5%だとします。(注:簿記の試験では貸倒引当率は問題文で指定されます。)

そしてX1年度末における売上債権は合計で100万円だったとします。

この場合、X1年度末決算整理に置いて引き当てが必要な貸倒引当金は100万円x5%=5万円となります。

もし、決算整理前の貸倒引当金残高が0円だった場合、仕訳はこうなります。

<仕訳4>
 
貸倒引当金繰入 5   貸倒引当金 5
     -費用-            -評価勘定-

 

しかし、決算整理前において貸倒引当金残高が0ではない場合、例えば、決算整理前において貸倒引当金残高が3万円である場合は以下の様に計上します。

<仕訳5>
 
貸倒引当金繰入 2   貸倒引当金 2
     -費用-            -評価勘定-

 

この方法は差額補充法といい、引当金設定額(決算整理後の貸倒引当金残高)と(決算整理前の)貸倒引当金残高の差額を計上する方法です。この場合はもともと貸倒引当金に3万円の残高がありますから、差額の2万円を引当金繰入額として計上する結果、貸倒引当金勘定の残高は5万円、つまり引き当てたい額になるわけです。

もし差額がマイナスの場合には、貸倒引当金繰入という費用勘定の代わりに貸倒引当金戻入という収益勘定を用います。

例えば決算整理前の貸倒引当金残高が6万円だった場合、要引当額5万円との差額はマイナス1万円ですから、仕訳は次の様になります。

<仕訳6>
 
貸倒引当金 1   貸倒引当金戻入 1
-評価勘定-        -収益-

 

貸倒時の仕訳

では次に、X1年度に発生した売掛金がX2年度に貸し倒れた時の仕訳を見ていきましょう。

貸し倒れた金額は20万円でした。この時、いきなり貸倒損失を計上するのでなく、評価勘定として貸借対照表に計上されていた貸倒引当金勘定残高を先に取り崩します。

そしてそれでも補いきれなかった額を貸倒損失として計上します。

<仕訳7>
 
貸倒引当金 5   売掛金 20
-評価勘定-   -資産-
貸倒損失   15
-費用-

 

償却債権取立益

さらに、X3年度になって、X2年度に貸倒処理した20万円を現金で回収したとしましょう。この場合は償却債権取立益という収益勘定を計上します。

<仕訳8>
 
現金預金  20    償却債権取立益 20
-資産-                -収益-

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

貸倒引当金繰入とは、当期の収益に貢献した掛や手形等の信用供与に伴う貸倒費用の見込み額(貸倒引当金)を設定するために必要な積み増し額を当期の費用として引き当てるものでした。

貸倒に伴う費用は、本来であればその債権が発生した年度の費用とするべきです。

しかしながら、将来予測の正しさには限界がありますし、遡って過去の帳簿を修正することはしない前提で考えれば、実際の貸し倒れ額と見込み引当額との間に差があった場合には、その差額は貸し倒れてしまった年度の損失(貸倒損失)として処理する(せざるを得ない)ことになるのです。

 

少し難しかったでしょうか?

 

「貸倒」という事象が普段私生活で必ずしも頻繁に起こることでも無いでしょうし、「引当」という会計の世界に独特の考え方も、馴染むまで少し違和感を感じるかも知れませんね。

ですが、これも慣れてしまえばそんなに難しいものではありませんので、敬遠せずにぜひこの機会に身に付けて頂けたらと思います。

 

それでは今日はこの辺で。

 

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